Q1自己破産って何ですか。

とある日の午後、弁護士事務所を年配の人が訪れた。何でも自己破産について聞きたいと言うのだ。

― 先生、身内に自己破産をした人がいるのですが、自己破産という恐ろしいことをするのは、とんでもないのではないですか。

弁護士「恐ろしいこととはどういうことですか」

― 市中引き回しみたいな、まるで刑務所にでも入れられるような・・・

弁護士「違います。自己破産というのは、本当にその人を助けて、新しい人生を歩ませるという手続です。」

― どうしてですか。

弁護士「破産というのは、財産が負債額よりも少なくて、借金がとても返済することが出来ない状態である時に、その時点で、持っている物を全て出して、清算して、再出発をさせることです。

そして、裁判所は、清算しても残った債務があるときには、審査の上で免責の決定を出すことがあります。」

― 免責というのは何ですか。

弁護士「借金を返済する義務がなくなることです。」

― そうすると、借金地獄から解放されるのですか。

弁護士「そうなりますネ。」

― でも、破産したら身ぐるみ剥がされてしまうのではないですか。

弁護士「身ぐるみを剥がれるということはありません。生活に必要な財産は残せます。裁判所が認めた金額の現金は残ります。手元に残せるのです。

また、破産宣告後は、自分で稼いだ物は自分で使えますし、これを以前の借金に回さなければならないということもありません。」

― しかし、いろいろ怖い目にあうのでしょう。

弁護士「怖い目かどうかわかりませんが、選挙権がなくなり、戸籍簿に烙印が押されたりすることはありません。」

― では、市中引き回しはないのですか。刑務所に入るようなことはないのですか。

弁護士「ありません。」

― 結局、自己破産って何ですか。

弁護士「ですから、その人を助けて、人生を再出発させる制度です。」

Q2「叔父さんが相続することはないが、叔父さんを相続することがある」って本当ですか。

  • 相続というのは、亡くなった方が持っていた資産 ―不動産や預貯金あるいは借金などすべての権利義務を全部承継することを言います(民法896条)。遺言によって取得者が決められていない時には、民法という法律では資産を承継する範囲が決まっています。これを相続人といいますが、例えば、父親が亡くなった時は、子供である私(自分)が相続人になります。

②ところで、私(自分)からみて、父親の弟が叔父さんですが、私が死んだら、叔父さんが相続人となり、相続することがあるのでしょうか。

・結論 叔父さんは私を相続しません。

相続人は民法という法律で決まっているわけですが、どんな場合でも配偶者つまり夫や妻は常に相続人となります。

次に、私の子供も相続人となり得ますが、その者がいないと私の父親母親が相続人となります。しかし、両親とも亡くなっている時には、その更に祖母や祖父が相続人となりますが、普通はまず祖母祖父はいないでしょうから、次に相続人となるのは私の兄弟です。その兄弟が死んでいるとその子供が相続人となります。つまり、私が死んでも、叔父さんが相続人となることはないということになります。

つまり、私が死んでも叔父さんが相続することはない、と言うことになります。

③それでは、叔父さんが亡くなった時は、私は相続人になるのでしょうか。先程の基準を当てはめると、まず叔父さんの配偶者つまり奥さんが相続人です。叔父さんの子供も相続人になりますが、子供もその孫もいない時は、叔父さんの両親(つまり私の祖父母)が相続人ですが、この両親が亡くなっていると、叔父さんの兄弟である私の父親が相続人となります。父親が亡くなっていると、その子である私が相続人となるわけです。

つまりは、「叔父さんを相続することがある」のです。

Q3 相続というのは、死亡が不明な場合でも、相続が開始されることがありますか。

相続は死亡によって開始されるのが原則です(民法882条)。

この死亡は、死亡とみなされる場合も含まれます。二つあります。

1 1つは失踪宣告の場合です。

この失踪というのは、不在者の生死不明の状態が継続するということで、その形態は、⑴普通失踪と⑵特別失踪があります。

  • 不在者の生死が7年間明らかでない時は、家庭裁判所が利害関係人の請求により失踪の宣告をする。この場合、7年の満了時に死亡したものとみなされることになります。
  • 特別失踪

戦争、船舶の沈没等の危難に遭遇して、生死不明となり、危難が去った後、1年間生死が明らかでない時は、失踪宣告がなされ、危難が去った時に死亡したものとみなされます。

2 もう1つは認定死亡です。

災害等にあって、死亡が確実である場合、死体が発見されなくとも取調べをした官公署が死亡地の市町村長に死亡報告をすることにより、戸籍に死亡の記載がなされる扱いとなる(戸籍法89条)。

これを認定死亡といい、戸籍に記載された日時に死亡したものとし、相続が開始されることになります。

Q4 長年、戸籍上の婚姻届は出さず、夫と生活を共にしてきたいわゆる内縁の妻は、夫死亡後、相続人となれないのですか。

相続人にはなりません。

法は、配偶者は常に相続人となると規定していますが、婚姻は、戸籍法の定めるところによって効力を生じるので(民法739条1項)、婚姻届を出していなければ、相続人になりません。

結婚式を挙げ、皆に夫婦として認められ、仲良く暮らしても相続人とはならず、夫婦仲が悪く、別居中である場合の配偶者は、相続人になることになります。

しかし、内縁の妻でも、一定の場合に借家権の承継が認められる場合もあり(借地借家法36条)、また、いわゆる特別縁故者としての財産の請求ができる場合もあります(民法958条の3)。

Q5 相続人が遺産分割協議を行おうと考えましたが、相続人の一人は、音信不通で連絡もできません。遺産分割はできるのでしょうか。

1 不在者財産管理人選任の申立をして、家庭裁判所に不在者財産管理人を決めてもらい、その管理人と遺産分割協議を行う方法があります。

2 また、音信不通で行方不明で、それが7年を超えている場合には、失踪宣告の申立をして、同人が亡くなったものとして遺産分割協議を行うことも考えられます。

Q6 相続人の一人が意識もなく、認知症も進行して、物事の判断もつかない状態となっている場合には、遺産分割協議はできるのでしょうか。

遺産分割協議は法律行為の一つですから、協議内容等を判断する能力があることが必要です。

したがって、その能力がない者とは協議することはできないということになります。

こうした場合、その者について、成年後見人を選任してもらい、その選任された成年後見人と遺産分割協議をすることとなります。但し、成年後見人は、本人の利益を損なうことはできないので、相続分をゼロとするとか、財産を一切放棄するような分割協議はできないと思われます。

Q7 私には、長男と次男の推定相続人がいるのですが、この長男は暴力的で私から金をせびり、あるいは体の病弱をいいことに、侮辱、虐待をするので、長男を相続人から外すことはできないでしょうか。

1 法律では、相続人にはなれない一定の事由(相続欠格という)がある人は、相続権はありません。

故意に死亡させたりして、刑に処された者や、詐欺、脅迫により遺言させたり、取り消させた者、遺言を偽造したり隠匿した者等の一定の事由があるときは、被相続人の意思に関わらず、相続権を失うことになります。

2 推定相続人の廃除

遺留分を有する推定相続人が、被相続人(相続される人)に対して虐待をしたり、重大な侮辱を加えた時や、その者の著しい非行があった時は、被相続人は家庭裁判所に相続権を剥奪することを請求することができます(民法892条)。

これは、生存中に請求する他に、遺言で請求する方法もあります(民法893条)。

排除が認められた時は、市町村役場の戸籍課に届出をすることになります(戸籍法97条)。

Q8 どのような財産が相続財産として遺産分割の対象となるのか。

相続というのは、相続開始時に、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することを言います(民法896条)。

但し、系譜、祭具、墳墓の所有権は、遺産分割の対象ではなく、慣習に従って、祖先の祭祀を主宰すべき者が承継することになります。

一切の権利義務の中に、入るかどうかの問題となっているのは、生命保険金、死亡退職金などがありますが、別項で説明します。

その他、問題なのは、遺産分割の対象となる相続財産と相続税の課税対象となる相続財産とは、その範囲が一致しないところがある点です。

これについても、別項で説明したいと思います。

Q9(死亡退職金は遺産(相続財産)となるか)父は定年前に死亡してしまいましたが、死亡退職金は遺産となるのですか。

死亡退職金の規定により支払われるから遺産ではない。

①例えば民間会社の場合、社内規定により取得されるから遺産ではない。

②国家公務員の場合、国家公務員退職手当法に規定があり、この規定により支払われるから遺産ではない。

結局のところ、死亡退職金は退職金という名称からは仕事の対価のイメージが強いが、在職中に亡くなったので、その者によって生活していた者を保障するために支給するという性格上、死亡退職金は、被相続人が持っていた権利と言えないから、相続財産ではないと言うことである。

(結論)父が在職中に死亡してもらう死亡退職金は、規定で取得者が決まっており、相続の対象たる遺産ではない。

Q10(生命保険金)父は生命保険に入っていたのですが、死亡により保険金2000万円が母に入りました。長男である私には、遺産の一つとして、相続の対象とならないのでしょうか。

生命保険金は、契約に基づいて、受取人と指定した者に直接支払われるものですから、受取人の指定がない場合を除いて、相続の対象たる遺産とはなりません。

但し、この2000万円は、相続税の関係では相続財産とみなして、税金額が計算されます。この点、注意が必要です。

Q11 父の遺産について、相続人の長男A次男Bが、相続税申告書に、「現金600万円」と記載して申告をしていた。実際は、父の財産を管理していたBの意見に従って作成されたものであったので、AはBが隠し持っているから、これを出して遺産分割をすべきだと主張している。相続税申告書にある「現金600万円」は、遺産として分割の対象となるのか。

相続税申告にあたり、現金600万円の記載の意味により、分割の対象となるかが決まることになる。

  • 税務対策として適当に計上した場合、つまり死亡時に現金がゼロというのは、他の遺産状況からみてあまりない。そこで、若干の金額を現金として表示することがある。こうした場合、現金はそもそも存在しないのだから、遺産分割の対象とはならない。
  • ところで死亡時に、住居の中にタンスの中に保管していた現金が見つかった場合、この現金は現存するので言わば動産であり、相続時(死亡時)にも、分割時にも、動産として存在しているときには相続財産として分割の対象となる。

以上の以外、様々なケースが考えられる。例えば、治療費や葬式の為に、預金から一定額を引き出していた場合、これを申告上、現金○○円と記載しているような場合だ。これをどう扱うか、更に問題となるだろう。

Q12(相続人名義の預金)亡くなった父は、生前、長男である私名義の通帳を作り、預金をしていました。この預金は遺産分割の対象になるのでしょうか。

従前、他人名義での口座開設が出来た時代もあり、父親が子供の為に子名義の口座を開設し、預金をしているということがありました。

このような場合、実質的に父親の預金であるとすれば、遺産分割の対象である相続財産となります。

しかし、父親の預金とまでは立証出来ない時は、相続人間の協議で父親の相続財産と扱うことが考えられます。対象となる合意がない時には、名義人の預金であるとして相続財産からはずし、この預金は生前の特別な利益だとして、扱うことも考えられます。

Q13(香典は相続財産となるか)父の葬儀に際し、参列者から香典を戴きましたが、これは相続財産になるのでしょうか。

香典は、喪主への贈与と考えられているので、遺産分割の対象である相続財産にはなりません。

Q14(借金(保証債務)はどうなるか)父は生前、多額の借金をし、また他人の借金の保証人となっていましたが、この借金や保証債務はどうなるのでしょうか。

相続というのは、一切の権利と義務を承継するものですから、借金は返済義務があるし、保証債務は本人に代わって返す義務があるので、これらの義務は相続人に引き継がれることになります。

借金などを引き継ぎたくない人は、相続放棄をしなければ義務を免れないことになります。

Q15(相続放棄と遺産分割)長らく別居していた父が亡くなり、私と兄と弟の三人が相続人となりましたが、兄との遺産分割協議で自分は相続しないと書いたのですが、父は借金を残して亡くなったことから、相続人に対して借金の取立がきましたが、相続放棄したのに支払わなければならないのでしょうか。

自分は相続しないということで、自分以外の相続人が財産を受け取るという遺産分割協議書に、署名押印だけをしておくという場合があります。

このような場合、借金を相続していないということを債権者が同意しない限り、法定相続分に従って、借金の義務を免れません。

そこで、借金を免れる為には、相続放棄の手続をする(家庭裁判所に申述する手続)ことが必要となります。もっとも、相続放棄の申述の申立は、相続が開始されたのを知ってから3ヶ月以内にしなければなりません。

したがって、相続放棄をしたい人は、時間経過しないよう注意が必要です。

Q16 遺言と遺産分割

父が亡くなり、相続人は母と兄と私(弟)です。

父の遺言書が発見されたとして、兄がこれを家庭裁判所に提出して検認されました。遺言書によると、すべての財産を兄に相続させると書いてありますが、相続人全員が母の今後を考えて、母に2分の1の財産を収得してもらうことに合意したいと思っています。

遺言に従わないことが出来るのでしょうか。

遺言書には、遺言執行者が選任されていることが多いと思いますが、この遺言執行者は遺言内容を実現する義務を負うのですが(民法1012条1項)、相続人が遺言執行者の遺言執行を妨げることは出来ません(民法1013条)。

したがって、この場合は、遺言書と異なる遺産分割は出来ないということに理論上はなりそうです。

しかし、実際の状況等からみて、遺言と異なる分割協議をすることは許させるとの考えもあります。実際にどうするかは、弁護士などの法律専門家に相談すべき事案と思われます。

Q17 配偶者例えば妻が相続する場合には、相続税はかからないのですか。

被相続人の配偶者が取得した財産(債務葬儀費用等を控除した資産=正味遺産額)が1億6000万円までは相続税はかかりません。

相続税法19条の2には、この正味遺産額が1億6000万円または配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額まで相続税がかからないとされています。

配偶者には、内縁は含まれません。

Q18 父が亡くなりましたが、父が暮らしていた家が遺りました。相続人は兄と弟だけですが、家を分割できません。どうしたらよいですか。

各人の共有とする方法、建物を売却して代金を分ける方法、一人が相続して、他の相続人には代償金を支払う方法があります。

は今後どのように使用していくか等の問題がありえます。

では、売却に反対者がいると実行できませんが、持分を単独で処分することは出来ます。

しかしこれでは、買主ともう一方の持分者との紛争に発展しかねません。

代償金を確実に支払わせられるか、問題となることはあります。

Q19 相続法の改正で、配偶者が保護されると聞いたのですが、その内容を教えて下さい。

配偶者を保護するものとして、

  • 配偶者短期居住権
  • 配偶者居住権
  • 遺産分割に関して、持戻し免除の意思表示の推定規定の3つが設けられました。
  • 配偶者は、相続開始の時に無償で居住していた場合、遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間、また6か月間、引き続き無償で建物を使用することが出来る。
  • 配偶者が居住していた被相続人の所有建物を対象として、終身又は一定期間配偶者にその使用収益を認める。
  • 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方配偶者が他方配偶者に対し、居住用不動産を遺贈又は贈与した場合、903条3項の持戻し免除の意思表示があったものと推定し、遺産分割においては持戻しの計算は不要となった(民法903条4項)。

Q20(香典)葬儀に際し、香典を戴いたり、生前働いていた会社から弔慰金を戴いたのですが、これらはどう扱うことになるのでしょうか。

香典は、葬儀の主催者たる喪主への贈与と考えられていますから、故人の持っていた財産ではないので、相続の対象ではありません。

弔慰金も個人の財産ではないので、相続の対象とは思われません。

しかし、弔慰金も、故人が業務上死亡したような場合は、実質的に死亡退職金と同様だと思われるので、みなし相続財産として課税の対象となることはあります。

Q21(死亡届)父が亡くなりました。死亡について、どのような手続きが必要ですか。

死亡届を提出します。

  • 死亡の届出は死亡の事実を知った日から7日以内にしなければなりません(戸籍法86条)。
  • 届出を出す義務ある者は、
    • 同居の親族
    • その他の同居者
    • 家主、地主、家屋や土地の管理人です。

同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人、任意後見人も届をすることが出来ます。

  • 届の提出先

死亡者の本籍地、死亡地又は届出人の住所地、所在地の市役所、区役所、町村役場に届出ることになります。

  • 死亡に関連した届出としては、世帯主変更届、国民健康保険の資格喪失届、国民年金の死亡届、介護保険被保険者の資格喪失届などがあります。

Q22 生命保険金は相続財産ではないと聞きましたが、これを使って相続争いをうまく対処出来ないのでしょうか。

①生命保険金は相続財産ではないが、みなし相続財産とされ、相続税の課税価格に算入される場合があります。

しかし、相続人1人につき500万円までは非課税となるので、その分節税対策になるという考えがあります。

②相続税の支払いにあてる現金がない時には、この生命保険金の利用が出来るということも考えられます。

③被相続人が個人事業主で、その事業の特定財産を長男が引き継ぐ場合、長男は他の相続人に代償分割を行うこととして、その代償交付金にこの生命保険金をあてて、相続争いを解決する方法も考えられます。

Q23 父が亡くなり、兄弟が相続人となったのですが、同居していた兄が父の預貯金を勝手におろして自分の為に使っていたようで、3年間で1000万円位あることがわかった。相続人としては、どのように取り戻すことが出来るのか。

生前に被相続人の預貯金を払い戻している場合には、被相続人の意思によらずに払い戻しを受けているとすると、不法行為による損害賠償の請求あるいは不当利得返還請求をすることが出来る。

この場合、本人が介護施設に入所して自分で払い戻すことが出来ないことや、本人には払戻を頼むだけの意思能力がないことを立証することが必要となる。

これらは具体的事実に基づく主張となるから、この具体的事実をどのように立証していくかが問題となる。